守り続ける

守り続ける

夏油様術師

昔から怪物が見えていた

「こっちいこ!」

「え?なんで?」

周りのみんなには見えていなかった

いくら両親に訴えても理解はしてもらえなかった。

だから自然と誰かに信じてもらうことを期待することはやめた。

だから怪物がいる時はたとえ不自然だとしても別の場所を通ることを要求していた。

そんな生活をずっと続けていた。




「ぁ、あぁ…ぁ…ぁぁぁ…」

でも見てしまった

怪物が人を殺す姿を。




だが同時に希望も見つけた。

怪物を殺した人がいたのだ。

怪物は殺せないわけではない

何処かアレを絶対的な存在だと思っていた自分にとって

それがとても大きな希望に思えた。

結局、その人と話すことは無かった。



だが、それから自分の生活は変わった。

両親に道場やジムに通う許可をもらった自分は過酷な鍛錬に身を移した。

5歳にして武術に興味を持ち異常なまでに鍛錬に打ち込む自分の姿は両親にとって恐怖の対象だったのだろう

次第に両親が自身に関わる頻度は減っていった。

道場に通うための金銭や、生きるための食事は相変わらずでしてくれた。

きっと、わからなかったのだろう

こんな自分との関わり方が

愛し方が

それだとしても鍛錬は続けた

大切な友達や幼馴染、家族を守るために

それが自分にできる唯一のことだと考えていた。

1年後、小学生1年生となった自分は初めて怪物を倒すことに成功した。

達成感、それが己を満たしていくのを感じた自分はひたすらに怪物を倒し続けた。

いつのまにか友達はいなくなっていた。

当然だろう。毎日のように鍛錬や怪物退治に明け暮れる自分は友達付き合いが悪かった。

同時に学校での成績も底辺もいい所だった。体育の成績は6年生を含めてもトップクラスで良かったが、それ以外がダメだった。

寝る間も惜しんで鍛錬していたのだ。

碌に鍛錬も怪物退治もできない退屈な授業に居眠りをする

そんな昼夜逆転した日常を送っていた。


だが、幼馴染の少女だけは自分から離れはしなかった。



中学1年生のある日、下校途中だった

異様な気配を感じた

普通の怪物が現れる時も気配はするが、ここまで自分が死んだような、背筋が凍てつくような感覚まではしなかった

これは今まで戦ってきた怪物の中でも最も苦戦するだろなと思いながら微かに笑っていた。

自分の中ではもう目的と手段が逆転していた。

鍛錬のために怪物を退治する

その過程で人を助ける

もう人が目の前で死のうと何も感じなかった。

今はただ、己が高みに昇る感覚が心地よい

それだけだった。


「…は?」

そこにいたのは幼馴染の少女だった

俺にとって唯一の友達

そんな彼女が目の前で死にかけていた

その犯人と思われる怪物は今にも彼女を飲み込もうと口を大きく開けていた

瞬間、脚が動き出した

彼女を押し除け身代わりになるようにと

痛い

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い


「あぁあああああああぁぁぁああああああああああああああ!?!?!?!?」

腕が食いちぎられた

誰に?怪物に

血が止まれない

流れつづける


怪物は再び口を開け俺の残った片腕も食いちぎった。


嫌だ。死にたくない。

まだ生きたい。

逃げたい。


でも逃げたらどうなる?

死ぬのは彼女だ

恐怖を振り切り怪物に蹴りを喰らわせる

「ぁっあぁああ!!」

だが対して効力はなかった

怪物は俺の腹を殴った

血反吐が出る

口の中で鉄の味が充満した。

少しづつ意識が薄くなる

せめて、かのじょだけは…たす、け


















ああ、これが死か

今更後悔しても遅いかな

まだ、死にたくないなぁ

ふりかえると自分はいつも

何かの力を使っていた

それが何かはわからない

だけど何かが掴めそうな気がする

力を混ぜる

何かが変わったように感じる

変化した力を失った腕に流す















「シッ!!」

再生した腕を使い怪物を殴る

今、死の淵に立ったことで確実に何かが変わった

蹴り、殴り、アッパー、回し蹴り、背負い投げ、蹴り、蹴り、殴り

ひたすらに怪物を攻撃する

そして今、空間が歪み黒い光が疾る


「黒閃ッ!!!!!」


その言葉の意味はない

だが何となく、そんな感じがした

そして黒い光を纏った蹴りは怪物を吹き飛ばし消し去った。

そして瀕死となった彼女に駆け寄る

「死んじゃダメだ!死んじゃダメだ!」

先程できるようになった癒しの力を体外に出そうとする

できない

ならばどうする

そこら中に散らばっている自らの血に己の力を通す

力を通した血を操り形を作る

それは己の分身、未だ未完成である

己の中には使い物にならない力がある

その力の代わりに癒しの力を備え付ける

癒しの力は己にしか使えない

だから他人にも使えるようにする

血とは命の源

それを取り込み、己のものとすれば

他者も己と同じ

分身に彼女の血を取り込むように命じた

分身は彼女の血を取り込んだ

分身に彼女を癒すように命じた

彼女は少しずつ癒えてゆく

ひとまず安心だ

「あ、何だか意識が遠のく」

そうして俺は意識を手放した

その後、彼女に運ばれ看病された俺は彼女に事情を話すことになったのは

また別の話である

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